かみ合わない日常(永遠に暫定)

やってくるこの毎日が、人生だと知っていたら!

新車

新車に乗りたい。すべすべの。
新車に色をつけていく、快調なエンジンは控えめな響き。
そして、セカンドで床までアクセルを踏み込み。
突き抜ける快感は、隘路を掻き分けて。
痛みに震える車体は、哀しげな涙を一零。
左のフェンダーは擦れて、鮮血が滴り
ボクは優しく、傷口を嘗めるのです。

共産党カラーの、赤い内装で。
冷蔵庫から水を取り出すと、音を立てずに飲む。
寂幕の空間に耐えられずに、TVを点ければ「あたしんち」
揺れる紫煙に、ボクはソファに身を投げ出し。
やがてMステが流れ始めた頃に、静寂を打ち破る、来訪者。
aikoと平山綾を足して2で割ったような(なんじゃそりゃ)

部屋の明かりは仄暗く、窓から見える、偽者のサンタクロース。
「一人ぼっちのクリスマス?」そう訊く彼女をイレースする。
嫌なコトなど、何も残らない。その上目遣いの瞳に、ボクはすっかり騙されて。
例え偽りの感情でも、ボクはそれすらいとおしく感じる。
懐かしい匂い。でも、我を忘れるほど感情は昂ぶらずに、時計が気になる。
この瞬間、口に含んだパトスを開放する、刹那。
ボクは、彼女を後ろから羽交い絞めにする。離れていく、幻想のアムールに。

「じゃ、またね」
身を切るような寒さに、ボクの思考は明日の仕事の手順が流入して
自分のつまらなさに頭を掻き毟る。ワインレッドのRV車は、もう、草臥れた。
もう逢うコトも無いであろう、その車を追い越していく。左のミラーに流れ、消えた。
僕は訊けなかった。その、左手首の傷のコトを。この時間が、壊れる気がして。

新車を半額で乗れる、間借りシステムが、リアルな関係に成立しないかな…

(と)