かみ合わない日常(永遠に暫定)

やってくるこの毎日が、人生だと知っていたら!

妄想シリーズ「ドーナツのリング」

退廃的な日々が続く。
唯一の娯楽が、ラム酒をどほどほとロールケーキに浸して齧り付くだけの。
ジンジンする頭に、日々の苦悩を紛らせるように。

ボクは、明くる日もいつもの様に材料を下ろしていた。
高圧的な木材屋から調達してきた、
2x4材(12F)100本
同  (9F)50本
2x6材(12F)50本
コレを、独りで黙々とトラックから降ろし、立て場に立てかけていく。
午後4時の柔らかな陽光が、額の汗を照らす。

何かの迷いを断ち切るかのように、ただ、黙々と。
何も考えずに感覚を腕に集中していくと、思考は澄み渡っていく。
夜の海に照らし出される、一条の月の光のように。

迷い。迷いに迷い、惑ってきた青春の終わり。
青春の終わりにくぐる門は狭く、隘路を分け入っていく。
ふと気付く。上を見上げても、光が差し込まなくなったコトに。
どうやら、樹海に迷い込んだらしい。踏み込めば踏み込むほど、出口が見えなくなっていく。
ついには、引き返せなくなってしまった。暗く、湿潤した、でも渇いた世界。
その中に身を置く事が心地よく、抜け出せない迷宮を彷徨う事に疲れてしまう。

ボクは、ふと上を見上げた。
そこには、白骨化した屍が木の枝にぶら下がり、ゆらゆらと揺れている。
覚えず、嘔吐がこみ上げる。眩暈にも似た感覚が、ボクの脳髄を支配する。
ボクは静かに、屍を拘束から解き放つと胸で十字を切った。

主を失った、褐色がかっているロープに。
ボクは、首を通さずに入られなかった。カラダが、要求するのだ。
目を閉じる。すーっと、静かにカラダを任せていく。
目の奥に強い衝撃を感じた、次の瞬間。

ボクは、白い世界に中に倒れていた。
目を開けると、折れた枝が目の前に転がっている。
ボクはそれを手に取ると、思いっきり放り投げた。
遠くで、水音が聞こえる。ボクは、それに向かって歩き出す。

白い世界の中に。
うっすらと、一筋の道がついている。
ボクは、それを頼りに歩き出す。
すると。
光が。今まで見えていなかった、光が差し込んでくる。
ボクは思わず、目を細める。久し振りに感じた、否、今まで感じる事の出来なかった。

幸せなんて、ドーナツのリングみたいなものなのかもしれない。

(と)