かみ合わない日常(永遠に暫定)

やってくるこの毎日が、人生だと知っていたら!

妄想シリーズ「邂逅」

「青いな・・・」
新緑萌える4月の終わりの日曜日。
何故だか、今日は空が一層青く感じる。最近、空を見上げる時間もなかったからだろうか。

いつものように、大して用もないのに三宮まで来てしまった。
独り部屋に籠もっていると、激しい不毛感に苛まれる。
とはいえ、新しい家族の増えた実家には、どこか自分の居場所がないような気がして、戻る気にはなれない。
結局、意味なんてないことは承知の上で、繁華街へと足を向ける。
人込みの中に身をゆだねていると、浜辺に打ち寄せる貝殻のように、穏やかな気分になれるのだ。
少しの物欲と、食欲を満たすために。そして・・・

「疲れたな」
さして必要でもなかったワイシャツと、何となく目に付いたインドのインセンスを買う。
夕刻までの一時を喫茶店で過ごそうかなどと、目抜き通りの横断歩道で信号待ちをしながら考えていた。
やがて、青に変わり力なく歩き始めた。

交差点の真ん中で。
あ、あれは・・・
反対側から歩いてきたのは、いつも行く病院の受付嬢ではないか。
制服姿とはまた違った、可愛らしい感じの私服姿で。
一瞬、目が合う。が、向こうは気づいていないらしい。そのまま、向こう側へと渡ってしまった。
ボクは振り返り、その後姿を目で追った。どうやら、駅に向かっているらしい。

「どないしよ・・・こんな所で声掛けられても迷惑やろし」
しかし、こんな邂逅はもう二度とないかもしれない。躊躇なんてしてられない。
ボクは、走る。今来た横断歩道を駆け戻り、人込みを縫いながら彼女を追う。
もう、息も切れ切れだ。駅に入ろうとしている彼女に
「ちょ・・・ちょっとまって。ハァハァ」
「え・・・」驚いたように、振り返る彼女。

「ああ。いつもいらしてる。びっくりした。こんなところで逢うなんて」
「折角やから、な。ちょっと喫茶店でお茶でもと思うて」
ちょっと戸惑ってる様子。やはり、まずかったか。
しかし、すぐに笑顔になって。
「あの、ホントは患者さんにプライベートで逢っちゃダメなんだけど・・・特別」
ココロの中で、ガッツポーズ。
意味のないはずの休日が、今、リアルな現実として。

(と)