かみ合わない日常(永遠に暫定)

やってくるこの毎日が、人生だと知っていたら!

妄想シリーズ「彼と四度目に会ったとき」

彼と初めて会った、夏の東京。どこかボクと似た「匂い」を感じた。
腺病質な彼は、どこか果敢無げで、憂いた表情を浮かべながら。
どこか昔の自分を見ているような、否、正確には違う。
悩みに正対している若者の不器用さが、愛しかったのだ。

彼と二度目に会ったのは、冬の横浜だった。
クスリの遣り過ぎだろうか、酷く窶れた風体の彼は、会うなりすぐにクスリを求めた。
あのときのボクの思考は、麻痺していたのかもしれない。彼にとって、ボクは「クスリをくれる人」くらいの認識しかなかったであろうに。
本当に大切な奴だと思っているなら、身を滅ぼす手助けなんて、するべきではなかったであろう。
あのときの生気を失った、澱んだ目を、ボクは今でも忘れられない。

彼と三度目に会ったのは、それからしばらく時を隔てた、秋の北海道でのことである。
彼はしきりに、「もうクスリなんてやめた」などと口にするが、初めて会ったときのような、悩みの中に身を置く輝きは感じられなかった。
ただクスリを渇望する、麻薬中毒者のような濁った瞳。どこか落ち着きが無い、思考は破滅的で、一貫性がなく、体もげっそりと削げ落ち、頬もこけている。

心底失望してしまった。クスリが彼をこれほどまでに変えてしまったことを。
彼にとって、悩みを解決する手段は、哲学書ではなくクスリを呷ることだったようだ。
ボクはこんな奴に、過度な期待と尊敬にも似た感情を抱いていたのか。
もう、ボクは誰も信じられなくなった。体のいいことばかり云って、実際には怠惰の中に身を置く青年の変わりようを目の当たりにして。

もう、二度と彼と会うことも無かろう、そう思っていた翌年の秋。
「生まれ変わった僕を見てください」そう彼は云い、僕と会うことを求めた。
噂には、彼はクスリをやめたと聞いていたが、ボクは到底信じられなかった。
でも何故か、心の奥底では彼を信じたい気持ちが少しはあったのかもしれない。
彼と会おう。そして、一発殴ってやろう。神戸に着いたと電話を受けたボクは、決心を固めて車を出した。

スーツ姿で駅前に佇む彼を見るなり、険しかったボクの表情が少しだけ緩んだ。
笑顔を浮かべながら握手を求めてきた彼を制止し、僕は拳を握った。
「ガツンッ」
左頬に決まったパンチに、彼は一瞬驚いた顔をしながらも、
「ありがとうございます」
そう云って、瞳に涙を浮かべた。

(と)