かみ合わない日常(永遠に暫定)

やってくるこの毎日が、人生だと知っていたら!

プチ妄想、海南荘物語

ついに、有名人の仲間入りですかね。
苦節5年、とうとう・・・なぁんてね。

国道から一本入った、喧騒からやや離れた感じの路地にある。
煤けたベージュ色で、モルタル塗りの。
白いペンキで、壁に直接描いてある。
「海南荘」
別に、海に近いわけではないのに。大家の名前だろうか。
錆付いた階段を降りた先にある八重桜。この建物の移ろいを見守るかのように。

ボクは、そんな光景に風情を感じつつ、ぼんやりと眺めていた。
すると、2階奥の角部屋の扉が開く。
桜の花にも似た、可憐な少女がパタパタと階段を降りてくる。
そのとき、風が吹き少女のスカートがひらりと舞い、少女はうっすらとした眼差しで微笑んだ。
ボクには、もう迷いはなかった。つまらない倫理観に支配されている、ちっぽけな自分と決別すべく。

少女の肩を抱き寄せる。柔らかな感触を二の腕辺りに感じると、次の瞬間。
まばゆいばかりの光が、少女を包み込む。
ボクに残されたものは、掌に桜の花弁ひとひらだけだった。

(と)