かみ合わない日常(永遠に暫定)

やってくるこの毎日が、人生だと知っていたら!

妄想食堂

スパゲティばかりの夕食にうんざり気味の最近。
気分を変えるために、昔行きつけだった食堂に足を運ぶことにした。
うっかりしていると見逃してしまいそうな入り口にあるのは小さな看板と料理のサンプルの入ったショーケースだけだが、
いったん中に入ると奥に長い店内で一昔前のバス停に置いてあったような緑色の樹脂できた椅子と
ステンレスのカウンターがディープな雰囲気を盛り上げてくれる。

何故か、4人掛けの席は予約席のプレートが置いてあるのだが、
「座ってええか」
そう云うと、店員が慌ててプレートを外す。
「いらっしゃい・・・ませ」
おどおどした口調でお冷を持ってきたのは、まだ入ったばかりらしいバイトの女の子。
肩甲骨まで伸びる三つ編みに、アーモンドのような瞳。

私はとりあえず「エビの炒め物」と胃、腸を注文した。
内臓系の料理はボイルし軽く醤油をかけたのをピリッと辛い中華味噌で食べるのだが、これがビールのつまみに絶品だ。
…ちとマニアックすぎたのだろうか。女の子はうろたえている。
「すみません・・・確認してきます」
女の子はそう云うと、カウンターの奥へと駆けていった。
しばらくすると、
「大丈夫だそうです。お待たせしてすみませんでした」
三つ編みを揺らしながら戻ってきた女の子は、伝票をテーブルに置く。

持参した「論理哲学思考」を程よく読み進めいると、三つ編み少女が料理を運んできた。
「お待ちどうさまです」
少女は、丁寧にテーブルに置いていく。だが、頼んだものよりも一皿多い。
気づいた頃には、少女は三つ編みを揺らしながら、厨房へと入っていくところだった。
ここの料理はかなり脂っこいので、一品多いと完食するのが大変なのだが、
無理して食べることにする。

いつの間にか、ボクは三つ編み少女を目で追っていた。
額に滲む汗を、きちんとハンカチで拭う姿に、ボクは忘れていた何かを取り戻していく感覚にドキドキした。
会計で、多く食べた分の料金を払おうとした。
「いいんです。私の・・・サービスですからっ」
少女は、にっこり微笑むと、
「また、いらしてくださいね」
ボクは俯きながら、
「うん・・・また来るよ。ごちそうさん」
吸い込まれそうな瞳を、ボクは見つめることができなかった。

明日も、また来ようかな・・・

(と)