春の様な陽気で。
少し、埃っぽい空気に、ゆらゆらと。
軽い眩暈を覚えつつ、街へと出かける。
のんびりと時間が流れる、侘しい駅前通。
小奇麗な舗装と対照的に、閉まっている店の多さ。
15分ほど歩くと、駅へとたどり着く。
小走りに階段を上がると、コンコースへと続く。
改札を通り越し、北口の方へと。
窓の外を流れていく、夕映えの工場の煙突。この街の象徴であり。
そのまま、水車のある公園の方へと歩く。
まだ、冬囲いのしてあるそれは、渇いた景色に良く似合う。
少女が、自転車に乗って帰っていく。青白い空に、灰色の街が。
帰り。キオスクの前を通りかかると、タバコの補充をしている売り子さんと目が合う。
横分けの髪は、濃紺のゴムで縛ってあり、白い頬へと掛かる。
思わず、
「牛乳2本ください」
と、声を掛ける。
「260円です」
財布の中には10円玉がジャラジャラとあったけど、300円を出す。
少女の様な売り子さんが、にっこりと微笑みを湛えて。
「40円のお返しになります。ありがとうございます」
売り子の女の子の手のぬくもりを感じながら。
キオスクからちょっと離れ、乗りもしない行先板を見ながら。
1本だけ飲み干し、
「ごちそうさん」
と、瓶入れに戻す。
タバコの補充の続きをしていた女の子は、サッと振り向き、
「ありがとうございますっ」
と、再び笑顔を見せてくれた。
生きる希望なんて、その程度のものなんだな、と。
まだ輝く前の満月の下、もう1本の牛乳を握り締め、家路へと向かう。
明日もイイコト、あるといいなぁ。
(と)