安い服が似合うのもわかいうちだけだ。服だけじゃない。化粧品だって食べ物だって。
「ふう」
灰色のディスプレイをぼんやりと眺めて、溜息をつく。
もう一年以上、服を買ってない。
まあ、化粧は置いといて、食べ物だって・・・
「食いもんに金かけるってあほくさい」
実際そうさ。生協のコロッケを会社帰りに買うことが、ささやかなご馳走。
結婚すれば、こんな荒んだ食生活から解放されるんだろうか。
結婚に何を期待するかといえば、食生活の改善、が
真っ先に想起される。
別に結婚せずとも、金さえ出せば。そう、金に物を言わせれば
そこそこ旨い物だって食えるし、いい女だって抱ける。
だけど・・・
夏蜜柑を剥きながら、ぼんやりと壁に貼られたポスターを眺める。
ボクの観念の中での「女性像」は、このポスターに描かれた女性に表象されるのだ。
決して、リアルに存在することの無い。だからこそ、妄念を抱く余地があるというものだ。
女性を神格化しだしたのは、何も今に始まったことではない。
そう、あの・・・あの女の存在さえなければ。
こんな妄想に苦しめられることなどなかったであろうに。
起き上がり、紺色の街並みを望む窓を開ける。
騒々しい雑踏と、アスファルトから立ち込めるもんやりとした大気。
空を見上げると、今にも降り出しそうな空。
「七夕は旧暦通りの方が良いなぁ、梅雨時にやっても星なんか見れん」
ふと、川沿いの道に視線を移す。
柳の木に、なにやら短冊がぶら下がっているのが見える。
「せめて何かを願わなければ、何も実現することは無い、か」
床に散らばったチラシを一枚手に取ると、長方形に引き裂き、
黒いマジック―――それしかなかったし―――で、書き殴る。
部屋着のまま、階段を駆け下りていく。なんだかわくわくとする、胸の鼓動を感じつつ。
(あ、紐を持ってくるのを忘れたな)
仕方が無いので、既に結ばれている短冊と一緒に結わえよう、と枝からピンクの短冊を外した。
「あ、どうして外したの?」
背後からの声に振り返ると・・・全身の血が沸騰するかのような錯覚に襲われる。
少女は・・・転校する前の日に、再会を誓って・・・反古にしたまま、記憶の奥底にわだかまっていた、あのコ
「やっと・・・逢えたね」
刹那、目映いばかりの星空に、少女が吸い込まれていく。
ピンクの短冊と、無粋なチラシ紙を一緒に結わえて。
(と)