かみ合わない日常(永遠に暫定)

やってくるこの毎日が、人生だと知っていたら!

奇跡補完計画

メビウスの輪は、繋がっています。
また、元に戻るのです。

疎らな乗客の影、闇に包まれた車内。
車窓にまばゆい無数の光を流ながら。
バスの行き止まりになにがあるのか、子供心の僕にとってひとつのロマンだった。
今のバスの行き止まりには何があるのだろう。
知りすぎることで得たものは、大勢の中での孤独。
社会が要求する水準に無理矢理合わせてきた歪みと疲れ。
決して満たされない、否、満たされることなんてないことを知りながら
そう、すべてが厭になったんだ。

(アガスティアの葉なんて、嘘っぱちだ…)
行き止まりにあったものは、ただうんざりするほどの孤独。
バスの音声から聞いたことがある名称が流れる。
「弥生通り…」
21時18分、僕は独り降り立った。
そこにあるのは、高層アパート。
あの時果たせなかった願いが、具現化するときがやってきたのだ。
僕は、独り虚空を見つめた。
あの日の情念を、再び甦らせて、一度、この弥生通りで相合傘をしてみたかった。

僕は今独り、14階の窓を開け放つ。
初春の冷たい雨は情念を激しく叩きつける。
思い残すことなんてない、なんて嘘だけど
結果は思い残せないことだらけだ。
春の雨は夢の終わりを告げる。
そこが僕の行き止まりだった。

静かに目を閉じ、重力に体を預ける。
不思議と手足から力が抜けてきた。
そう、あのときもこんな感じだった。
狼少年が、地平線の彼方で見たものは、「やさしさ」だったのだ。
ボクは、それに気づかずに、また、同じ過ちを繰り返してしまった。
この指先と一緒だ。何度、過ちを繰り返しても、傷跡だけが残る。
ただ妄念に支配された、エゴイズムを解放することでしか、
君の問いに答えることはできなかったのだから。

膝を抱え、泣いている少女。
もう、逃げたりなんてしない。そっと、話しかける。
「何故、君はバスを逃したんだい?」
「お兄さんこそ」
バスと逃したという一つの絶望のなかにようやく笑みがこぼれる。
二人という答えが、正しいのか。そんなことなど、もうどうでもいい。

またポツリと雨が降り出した。
「傘、あるから」
少女は、こくりと頷く。
「何処まで行こう?」
「お兄ちゃんの行けるところまで」

バスがないのは一つの絶望でもあり、喜びでもある。
アガスティアの葉には記されていない出会い。
あの時止まった時計が、静かに、時を紡ぎだした。

(と)