かみ合わない日常(永遠に暫定)

やってくるこの毎日が、人生だと知っていたら!

妄想パクリ文学「夏少女」

ああ・・・暑い暑い・・・今年の夏は、なんて暑いんだ。夕方の六時を過ぎたというのに、まだ、日は沈まない。
ボクはその日の仕事を終え、ゆっくりと家路を歩いていた。
(暑い夏・・・そういえば、暫く雨が降っていないな)
地面は完全に乾き、木々の緑もくすんでいる。こうして地べたを歩く風景は、物事の欠点ばかり目にとまり、現実を厭と言うほどボクの頭に、心に叩きつけてくる。

どういうわけだか、ここ二、三年、世の中がつまらなくてしょうがない。
会社にしても、家庭にしても、私の今の生活は決して他人から見て哀れみを感じさせるものではない。
昨年転職した外資系の会社での仕事にも慣れ、自由な時間がたっぷりあるので、自分自身を見つめ直せる・・・いいではないか。いいことではないか。
しかし、これが却って災いし、排他的な思いばかりを追いかけているのだ。
せめて、楽しめる何か良い趣味でもあったらと思うのだが…

少し、公園で休もう・・・そう思った僕は、公園へと降りる階段へと足を向けた。
その時。
「ワッ!!」
突然、小さな声と共に、背中を軽く両手で叩かれた。
ボクは、ちょっと驚き後ろを振り向いた。
そこには、両手を後ろに回してカバンを持ち、いたずらっぽく笑う少女の姿があった。
彼女は、少し丈の短い制服のスカートに、素肌にブラウスを纏っていた。綺麗に二つに分けられた髪が愛らしい。

少女は、はにかんだ笑顔を浮かべながら
「ねえ・・・お話しよう」そう云った。
ボクは微笑んでコンクリートのフェンスに肘を乗せ、壁に寄りかかって少女が何を言い出すか待った。
「ねえ・・・おじさん。内緒話、聞かせて」
「え!!」
ボクは、呆気に取られてしまった。突然話し掛けたきた少女に、一体何を話せばいいのだろうか。

「ねえ・・・初キスっていつ?」
何だ・・・そんなこと。しかし、ボクは返答に困ってしまった。
ボクは、34年間生きてきて、まともに女性と付き合ったことなど無いのだ。
「それは…」
ボクはとまどった。こんな時、嘘をつくなり、さらりとかわすなり出来ないボクは、やはり不器用なのだ。

「それは、云えないよ」
「どうして?」
暫しの沈黙が、二人を支配する。ボクは、ただただダメな男だ。
ふいに、夏の風が吹き抜けた。
そこに、生暖かい、柔らかい感触を唇に感じた。
「・・・プレゼント。私も、初めてだから」

すべて見透かされていたようだ。ボクは、苦笑した。

(と)