かみ合わない日常(永遠に暫定)

やってくるこの毎日が、人生だと知っていたら!

妄想シリーズ「Last day of 33rd」

33歳最後の日は、東京へと向う新幹線で僕は。
不発な日常の中では得られない興奮に、今から少しドキドキして。
猥雑な大阪の街並みが途切れると、ゆったりした車窓を流れる景色にまどろみ。

「どうも。はじめまして」
少しはにかんだ笑顔を見せながら現れた青年は、何と僕より10歳も年下だった。
驚いた。僕が夜ごとネットに向って発していた悩みに答えていたのが、こんな華奢な青年だったとは。

「生きる意味って、何なんでしょうね」
あの頃…僕は、渇いた呻きにも似た悲鳴を上げる青年の姿に、言いようのない美しさを感じた。
人生について思い悩み、深夜のファストフード店でニーチェの本を片手に額を寄せ合い語り合う…
みんな、若かった。そして無知だった。
自分が大人になる過程の中で捨て去っていったものが、そこにはあった。
すっかり汚れちまった僕の、欺瞞に満ちたココロを解毒していく時間の中に。

「さようなら。また逢いましょう」
そう云って手を振る彼の姿が、今でも脳裏に鮮明に焼きつく。

それから2週間後、彼の訃報に接したのはネット上でのことだった。
不思議と、涙は出なかった。ただ、悔しかった。僕は拳を握ると、遣り場のない憤りをキーボードにぶつけた。
あの時、僕は何て云ってやればよかったのだろう。
今更問うても仕方のない、彼の発した疑問に対して僕は。

過ぎ去ってしまった年月に、癒えることのない傷となって残ったこの思いを。
夢枕に立った彼はこう続けた。
「あなたが死んでも、世界は何も変わらない。でも、あなたが生きていれば、世界は変わっていくのです。それは、ゆっくりかもしれませんが、確実に」

目を開けると、あの頃の街並みとオーバーラップする景色に、僕は鳥肌が立った。
結局、君は自分で出した問いに自分で答えてしまったね。
ずるいよ、君は。あれほど悩み通した僕の苦労を、そうやって空の上から笑い飛ばしているんだろう。

雨上がりの白い空に、僕の孤独な情念は君に届いただろうか。
君に出会った街、東京に再び降り立った僕は。
33歳最後の日、ようやく思い出のカケラに惑わされた日々に終止符を打った。

(と)